「日本国民の苦しみ方」独シュピーゲル・オンライン紙、4月23日記事全訳


南三陸町で手を合わせる女性(DPA)

南三陸町で手を合わせる女性(DPA)

筆:ゲヴィン・リース、ロンドン

地震、津波、原発事故:日本は一連の想像を絶する惨劇を体験してきた。しかし日本国民は嘆かず、泣きわめくこともなく、非常にタフであるように見えるが、それはどうしてなのだろうか?

日本人は食料の仕出しの前で行列をし、退避地域から秩序だって避難し、そして忍耐強く安否情報リストの中から行方不明の家族・知人を探そうとする。破壊された家屋、原発の事故、多くの人々が死んでいるにも関わらず、である。福島の悲劇が発生してからの見たところ冷静な日本人の姿は世界中で報道された。そして何が起きても日本人の冷静さが損なわれることはないというイメージを定着させた。

悲劇的な状況は依然続いている。3月11日以降、およそ2万8000人の人が死亡したかもしくは行方不明だと言われている。福島第一原発は25年前のチェルノブイリ事故以来、最悪の原子力事故を被った。しかし、海外メディアが描いてきたのはそうした惨状に対して整然と対応する日本人の姿だった。東北の最も被害が著しい地域においてさえ、パニックに陥ったり絶望に沈む姿はほとんど見かけられない。

あるBBCの記者が「日本人のストイックさというステレオタイプ」と呼んだこの現象はどのように説明できるのだろうか?

日本人の冷静さは必ずしも日本人の無謀さを意味していない。世界中の大規模災害に関する科学的調査は実際にこうした災害時のパニックは私たちが思うよりも誘発されないことを示している。衝撃的な状況に対峙した時に人々は確かに極限的な精神状況を経験するが、見た目は冷静さを装っている場合がある。気分の変化や一時的な社会的断絶、もしくは突発的に蘇る災害の記憶(いわゆるフラッシュバック)といった事象は、平時においても困難な状況に対する耐性が強いような人々においても、災害の直後に見受けられる典型的な反応だ。こうした症状は一部の人においては長い期間持続するが、その他の人は比較的短い時間の経過の後で心の平静を取り戻すことが知られている。

「集団思考」の重力

しかし日本文化が特に災害から立ち直る力が強く、日本人が危機的状況に対応する能力に優れていることを証明するような科学的データは存在するだろうか?幾つかの調査が1995年の阪神大震災の被災者が1991年のインド、グジャラートで発生した震災の被害者よりも早期に回復したということを示している。このことは日本においては日本の集団の組織力がより優れているからだと科学者たちは報告した。

災害に対する人間の対応を調査した多くの科学的文献が、被災地域の片付けや友人家族の捜索といった積極的な対応が悲惨な状況下で精神を安定させる処方として有効であることを示している。行動することは自らの助けとなるのだ。個々人の貢献がどれほど少なくとも、行動することによって破壊的な無力感に抵抗することができる。公衆を助けるという行動は日本においては特に推奨されてきた。全体を支えることは個人の幸福に優先されるのだ。心理学者の河合隼雄は作家の村上春樹との対談の中で、日本の学校の教師たちは学生たちに黒板に「自分らしくあろう」と書かせることによって個人意識を高めていると冗談めかして発言したことがある。つまり日本の教師たちはこのように背中を押さないと子供たちが集団思考の中に埋没してしまうことを危惧しているというわけだ。河合はまた日本人が自分たちを「個人」として確立しないことが災害時において助けとなることを示唆している。彼が診療した日本人たちにおいては、アメリカ人において良く見られるような自責の念が薄いことを指摘している。

「 そういうもんだよ」というモットー

困難から立ち直る力、社会的協調、そして困難への対応といった概念は日本に深く根ざしている。それらは日本人が自らを定義する際の本質を指している。

このことはどうして筆者の日本人の友人達がここ数週間ヨーロッパのテレビで流れるニュースを見て苛立っているかを説明している。それらのニュース映像には冷静な日本人の姿が映っていなかったのだ。

彼らはどうしてヨーロッパやアメリカのアナウンサーたちが常に津波の被災者以外の人たちと会話しているのかと聞いてきた。なぜ彼らは路上でパニックが起こったかどうかという質問を繰り返すのか?日本の友人は欧米人のこの傾向に驚いていた。日本は過去の経験から恩恵を受けているのだ。19世紀中頃に西洋の諸勢力によって市場の開放を迫られ、第二次大戦に敗北したことは日本に深い傷を残した。日本の首相菅直人は最近これらの歴史について言及し、1945年以降を生きた日本人が困難と犠牲を伴いながら国を再生させたように、全国民に日本の再建に参加するように訴えた。

この数週間のあいだ落ち着きを取り戻すためかのように繰り返し聞かれた「そういうもんだよ」(訳注:原文ママ)という日本語の表現はこの世代に特有のものだ。それは筆者の友人の祖母が津波の後に宮城の実家を離れなければならなくなった時に最初につぶやいた言葉だった。

被害が大きいほど、精神の危険も大きくなる

こうした危機的状況に対して冷静を保つという慣習は言語と信仰に基づいている。「しょうがない」(訳注:原文ママ)という表現は外国人が最初に習う日本語の常套句の一つだ。この人称がないフレーズは、物事はただ起きるべくして起きるということを意味している。

仏教は生きることは苦しむことであると教えている。そして仏教は死生観にも積極的に言及する。ヨーロッパの多くのプロテスタント系社会とは異なり、日本では死という現象はタブー化されていない。日本では洗練された葬儀の様式が存在し、死者は遺された生者に影響を持っていると信じられており、死者は遺影と共に仏壇に祀られる。

医学が示すところによると、 社会システムがどれほど適切に対応できたとしても、個々の被災者は災害後の最初の一ヶ月において精神的に最も苦しむといわれている。2011年3月11日の記憶の呪縛からなかなか抜け出せない人々もでてくるだろう。1億2700万人の日本人のうちの極一部が深刻なトラウマを抱えたとしても、それは無視できない数となるだろう。

そして最も深刻な心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスクは通常、貧困層の人間と多くの資産を失った人々にふりかかる。このことはアメリカ合衆国を襲った2005年のハリケーン・カトリナの事例で証明された。

「心のケア」を

日本では「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)という概念は西洋ほどに浸透していない。2004年に筆者はBBCの記者として広島原爆の生存者と対話した。彼らの多くは、1945年8月にアメリカ合衆国が行った原爆投下が彼らにトラウマを与えたということを激して否定した。そのわずか10分後に同じ人たちがいかに彼らが悪夢から逃れるためにアルコールに頼っているかということについて語っていた。また、彼らは孫たちとプールに行けないと口を揃えて言っていた。水面に浮かぶ人間の姿は、1945年に広島の川面を埋め尽くしていた死体を思い出させるからだ。

しかしながらこの日本社会にも意識の変化が訪れる気配がある。神戸の震災の後、救助隊の人間が被災者たちが「心のケア」を求めていたと報告している。この日本語の表現は西洋における「トラウマ治療」という概念と類似している。

被災地の再建は日本国にとって巨大な努力を要するものであり、何年かかるかも分かっていない。最も被害を受けた人々、友達や家庭、住む家そのものを無くした人々は被災していない人間には想像のできない喪失と向き合い、悲しみを受け入れることを強いられている。

110万人強の人口を誇る繁栄都市にまで再建した広島市の事例は、日本人の再生能力の高さを物語っている。

1945年8月9日、広島の市営電車は運転を再開していた。鉄道員と兵士、そしてボランティアの手によって1キロメートル長の鉄道が敷設されたのだ。原子爆弾が爆発したのはそのわずか3日前だった。

ゲヴィン・リースはジャーナリズム・トラウマ・ダートセンター・ヨーロッパの所長。ジャーナリストと同時に映画作家であるリースは日本にも長年在住した経験があり、様々な日本のメディアの仕事も行った経験を持つ。

記事出典:http://www.spiegel.de/panorama/gesellschaft/0,1518,757813,00.html

訳注:ダートセンターの名称は直訳すれば「ジャーナリズムとトラウマのためのダート・センター」であり、コロンビア大学ジャーナリズム大学院を母体とする国際的なプロジェクトである。暴力、紛争そして惨劇の報道に関する倫理的な規定の構築を目指している。

・ダートセンターホームページ
http://dartcenter.org

・ダートセンター「トラウマとジャーナリズム:ジャーナリスト、編集者、管理職のためのガイド」(日本語)
http://dartcenter.org/content/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%9E%E3%81%A8%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0

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