「私はメディアの熱狂には参加しない」, 独ツァイト・マガジン, 2011.03.31付記事全訳


「私はメディアの熱狂には参加しない」
ランガ・ヨゲシュヴァー

最近、あまりよく眠れていません。それは福島の原発事故についての数多くの特集番組に呼ばれているせいだけではありません。それはなによりも、福島の惨劇の実状がテレビや新聞で伝えられている内容よりももっと深刻に思えるからです。

私はここ数年間、ユーリッヒの研究用原子炉で実験を行ってきました。だから私はあの、乾いたコンクリートのような放射線のほのかに甘い匂いを知っています。テレビ番組で使用済み燃料用プールが取り上げられているのを見ると、チェレンコフ放射によってプール全体が青光りする様子を直に見たのを思い出します。私は原発内での音の響きを知っているし、そこで働く作業員たちも知っています。基本的に彼らは良い人たちばかりです。

福島原発で今も働く人々について想いを馳せる時、私は自分がユーリッヒで知己を得ることになった同僚たちの姿を重ね合わせてしまいます。福島原発で起こったことについて考えると、私は深く怒りを覚えるのです。

私は状況について把握するために、日本の原子力関係機関の状況報告をつぶさに観察してきました。テレビが伝える報道映像だけでは何も分からないからです。こうした非常に正確に記述されている報告書からは福島の作業員たちが非常に困難な問題に一歩ずつ対応している様子が見て取れます。

私はこうした事故はある種の責任を生み出すと思っています。科学者として、またジャーナリストとして、この事故について正確に調査し、評価を下すことが私の責務です。私は現在「メディアの法則」(訳注:記事が悲劇的であればあるほどニュースの価値が上がること)によって発生している熱狂には参加しません。この惨劇に関する報道映像の豊富さはメディアにとっての肥料です。しかしこうした映像は現実に起こっている事態のほんの一部しか伝えていません。写真の数を減らすのであれば、メディアはもっと事実を伝えなければなりません。

数年前、私は数人の同僚とチェルノブイリにいました。廃墟となった街、プリピャチの中を歩いていくのは不気味な体験でした。いくつかの場所ではそこに住んでいた人々の息吹が感じられるようでした。ある学校では、数学の練習問題が書かれたノートブックが事故発生日以来放置されていました。その後、チェルノブイリ原発第4ブロックの制御室の視察に向かいました。そこに非常用スイッチが付いた制御パネルが見えたのですが、私にはこの光景が特に苛立たしかった。制御室に入るためには多くの障害が立ちはだかります。30キロメートルの退避範囲を進むためには十数個のチェックポイントを通過しなければなりませんが、それらを全て通過した後に突然制御室の前に立つ時、分かるのです。1986年の事故当時、誰かがもう少し早くこのスイッチを押していたら、あの悲劇は起こらなかったのだ、と。事故の因果関係は突如新しい様相を呈するのです。私は軍用ヘリコプターが放置された廃品置き場に向かい、計測器で放射線量を計りました。そこに残留していた放射線量は依然強いレベルを示していました。その瞬間、このヘリコプターのパイロットのみならず、この街の住民全員が放り込まれたであろう地獄絵図のイメージが私を襲いました。その時私は悲しみに圧倒されました。

しかしそこには驚かされることもありました。例えば私はそこで生涯で最も多くの野生のヘラジカや馬を見ました。そして今にも崩壊しそうな階段の隙間から木の根が伸びていました。

ランガ・ヨゲシュヴァー
51歳、ルクセンブルグ生まれ。博士(物理学)。ドイツでも最もポピュラーな科学ジャーナリストの一人。1993年からドイツの放送局WDRで「Quarks & Co.」という科学番組の司会を務めてきた。

“I have a dream”連載14回目
[訳注:”I have a dream”はZEIT MAGAZIN上で様々なドイツの作家、科学者、俳優といった著名人の独白形式のインタビューを掲載する連載]

・録音:ナナ・ヘイマン(Nana Heymann)
・写真:トマス・ラブシュ(Thomas Rabsch)

出典記事:http://www.zeit.de/2011/14/Traum-Ranga-Yogeshwar

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