IRSNレポート:福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響
2011年4月4日
数日来、福島第一原子力発電所近辺における海水に対する措置は、同発電所での事故の際に放出された様々な放射性物質による海中の強い汚染を明らかにしている。一般的に、海洋での放射能汚染は、一部は発電所からの直接の汚染水の流出によるものと、そして大気への放出に続いて雨によって洗い流され地面に積もった放射能汚染物の河川を通しての移動、そして最後に事故の起こっていた長い期間に、気流によって海側に向けられていた放射性プルーム(訳者注:気体状の放射性物質が大気とともに雲のように流れる「放射性雲」)中の一部の放射性核種の海洋への降下によるものである。これらの放射性物質の一部は水溶性であり、それらは海流によって移動するであろうし、とても広範囲に海洋の水塊の中で分散するだろう。そのほかのものについては、水中で太平洋の海底に比較的容易に沈殿した後、沈殿性の汚染を引き起こす強固な粒子となって固定化する傾向にある。半減期が短い放射性物質、ヨウ素131 (131I)のようなものは数カ月の間に検出されなくなるだろう。(ヨウ素131の放射能は10半減期すなわち80日ごとに1/1000ずつ減少している。)その他のもの、ルテニウム106(106Ru)やセシウム134(134Cs)は数年にわたり海洋環境にとどまり続けるだろう。セシウム137(137Cs)は半減期が長く(30年)、おそらく堆積物の中にセシウムが存在するであろう日本の沿岸地帯で長期間の注意深いフォローアップが行われることが正当化されるだろう。現時点では認められていないが、もしプルトニウムが海への流出したものの中にあったら、それについても同様である。
これらの放射性核種の残留とそれらの異なる濃度に応じて、野菜や動物が著しいレベルで汚染させる可能性があり、最も影響を受けている日本の沿岸部からの海産物に対して一連の放射線医学的な監視を行うことを正当化している。
1 放射性物質の半減期とは、放射性核種の放射能が半分になるまでの期間である。
1.海洋での汚染源
数日来、放射性汚染は福島第一原子力発電所の近隣や比較的離れた地域の海洋中で観測されている。海水で定期的に測定された主要な放射性物資は、ヨウ素(T=8日間)、セシウム137(T=30年間)、セシウム134(T=2.1年間)、セシウム136(T=13.1日間)、テルリウム132、ヨウ素132(T=78時間)(T=半減期)。その他のものもまた弱い汚染だが、次のように測定された:テリウム129m、テリウム129(T=33.6日間)、バリウム140/ランタン140(12.7日間)、ルテニウム105(T=4.4時間)、ルテニウム106(T=368日間)、モリブデン99/テクネチウム99m(T=65.9時間)、コバルト58(T=70.9日間)。
この放射能汚染には、考えられる3つの汚染源がある。事故の起きた発電所からの放射能汚染水、海表面への大気中降下物、汚染された土壌の除染による放射能汚染の移動。
1.1.事故の起きた原子炉付近での海洋へ直接的な汚染水流出
福島第一原子力発電所の近辺の海水中で測定され上昇した放射線濃度は、原子力発電所からの汚染水の漏洩源が一つあるいはいくつか存在することを示している。おそらく事故の起きた原子炉を冷却するために使われた水が問題であり、その一部は大気中に放出された際に形成された放射性物質によって汚染された表面に流れた。また、事故の起きた原子炉の中に存在している水(とりわけその低部を損傷している2号機)の一部が海のほうへの流れによって、囲いの外側へ流れた可能性がある。現在、海への液体流入の深刻さおよび期間も数量化することはできない。この液体流出の影響は、3月21日以来原子力発電所の近辺では観測されていた(137Cs で1484 Bq/L、131Iで 5066 Bq/L)。それから海水中での濃度は、3月25日から28日の間に増加した(137Cs で12,000 Bq/L、131Iで74,000Bq/Lまで)。新たな増加は、3月29日と30日の間に観測された(137Cs で47,000 Bq/L、131Iで180,000Bq/Lまで)。比較として、福島の事故の前には、日本の沿岸の海水中におけるセシウム137の濃度は数ミリベクレル/L(1~3mBq/L)で、ヨウ素131は検出されていなかった。
この沿岸の放射能汚染は、3月28日からとりわけ3月29日に岩沢(事故のあった発電所の南に約20キロメートル)でおよそ10倍のヨウ素131とセシウム137による汚染の増加とともに、3月25日から28日の間、南のほうに広がった。これらの濃度はおそらくこの場所で上昇し続けるだろう。
この海岸に沿った汚染の連鎖は、海岸に平行した往復流を引き起こしている潮の大部分に起因している。この汚染はおそらく福島第一原子力発電所の北にもまた広がっている。
1.2 海表面への大気中降下物
3月12日以来、福島第一発電所の爆発と原子炉格納容器の減圧によって引き起こされた大気への放出が海の上にばらまかれた。放射性プルームに含まれた放射性核種の一部は海上表面に再び降下し、数十キロメートルの河川の表面の水の汚染を急速に引き起こしている。これらの放射性降下物は現在のところ続いているが、事故当初の数日間より深刻でなくなってきている。
沖合い30kmのところで測定された濃度はおそらくこれらの沈殿物の結果である。それらは、セシウム137で2~27Bq/L、ヨウ素131で3~57Bq/Lになっている。
3月25日の測定は、これらの濃度の減少を示しているように見える。より深い水と混ざった(希釈の効果)結果にせよ、水流による表面の水の入れ替えによるものにせよ。最初の仮説のほうがよりありえる仮説である。
1.3 汚染土壌の洗浄による放射能汚染の移動
福島第一発電所からの放出における大気中散乱の際に陸上に積もった放射性堆積物は、部分的には雨水によって除去され、またこうして直接的な海への流れによって、あるいは海に合流している水の流れを経由して移動する可能性がある。汚染されて排水された地表はこうして数千キロ平方メートルに相当している可能性がある。稼働している測定ではこの拡散された量と他の放射能汚染源からの放射性核種とを区別することはできていない。
2.放射能汚染の海洋での拡散
2.1日本の海岸沖での海底地形図と海流
福島の発電所は本州の東海岸に位置し、東京から北西200kmにある。海岸は南北にわたっていて、太平洋に面している。深さは海岸から200mから50kmに達し、沖に向かって不規則に深くなっている。それは100km向こうでは、5000m以上と急激に深くなっている(図1)。
現実的に、放射線汚染の影響を受けている地帯では、海流は潮や風、太平洋の一般的な循環によって生成されている。短期的には、潮の効果は重要である。潮は、北のほうや南のほうの海岸に沿った周期的な動きにより、およそ毎秒1mの速度と12時間の周期で、水全体を置き換えている。風は表面の水の流れに影響を及ぼしている。
より大規模で一般的な循環は、日本海岸沿いにある南からの黒潮海流とそれほど重要ではない北からの親潮海流の相互作用の結果である(図2と3)。黒潮海流の激しさと規模は湾流にも匹敵しうるものである。福島第一発電所近くの沿岸水はこれら二つの海流がぶつかり合う地帯にあり、弱くて不安定な旋回流を引き起こしている。中期的に放射能汚染の分散にとって決定的な役割を果たすのはこれらの海流である。
(http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/2011cal/cu0/qboc2011060cu0.html)
2.2 中期的あるいは短期的な分散(数日単位)
ヨウ素131とセシウム137の濃度は、海で測定された放射性核種の全体の濃度を示している。図4~13の表はこれら二つの放射性核種の海水中で行われた測定の結果を示している。
海岸沖での海の顕著な深さと弱い海流は、水塊の層を引き起こしている。海岸近くの深さ20~50mの表面層はその深さの層全体で放射性核種を混合するであろう。この層は、沖のほうで100のメートルの深さに達している可能性があり(出典:公共利益団体メルカトル)、混ざり合うことを制限している濃度の勾配により、より深い層と分離されている。溶け込んだ放射性核種の拡散は第一に表面層で起きている。放射性粒子は堆積して底のほうで海外に広められるであろう。
この放射能汚染の海への拡散のシミュレーションは、3月14日から4月5日までの期間でSIROCCOのグループによって作成された。それは、放射性核種の分散による短期的に影響を受ける地帯を示している。これらの濃度は参考までに示されていて(図14、15)、というのは事実、福島第一発電所による放出された排水量についても、大量の海上への放射性降下物についても利用できるデータがない。しかしながら、これらのシミュレーションはその分散に応じて、放射能汚染の希釈の効果を推定している。
2.3 中期での拡散(数週間、数か月単位)
福島の東に位置する旋回構造は不安定である。それらは北緯35度30分と38度30分の間の水面をかき回している(図15)。この緯度の間に位置する沿岸部の全体あるいは一部が放射能汚染の拡散によって影響を受けるのは必至である。長期での水表面の変動は東京の緯度は超えないが南のほうまで行くだろう。その時黒潮は太平洋の中央まで放射性プルームを運ぶだろう。放射能汚染のこの変動のシミュレーションは公共利益団体メルカトルによって作成された(図16)。このシミュレーションにより、福島第一発電所付近の海水に溶け込んだ放射性核種はこの図に赤で示されている線に従って90日間流れ込むであろう。シミュレーションは、沿岸流が汚染された水を黒潮(太白線)まで運ぶことを示しており、この海流の北で拡散される。
海への異なる放出源がもっと見積もれれば、海上拡散のシミュレーションは中期的な放射性核種の濃度の広がりの見積もりを改善できるに違いない。
2.4 長期的で大規模な放射能汚染の生成
表面の水の滞留時間
半減期が短い放射性核種(数十日以下)はもはや数ヵ月後には発見はされず、従って長期で影響を与えることはないだろう。その他のもの、ルテニウム106、セシウム134のようなものは、数年間、海中で存在し続け、放射能の自然減少によって消滅するであろう。太平洋の水面でのセシウム137の滞留時間は、地域に依って11年から30年と様々である(平均的な緯度の地帯では10年間、赤道地帯では30年間)。プルトニウムの同位体に関しては、海への放出物の中に存在していると仮定すると、これらの期間は5~17年間である(最も短い期間は平均的な緯度で計測されている)。これらの滞留時間は水中を漂う粒子それぞれの放射性核種の類似性に依っている。それらは大西洋海底に放射性核種を運びこみ、堆積する可能性がある。
移動時間
北西大西洋と赤道の間の移動時間は、約10-15年と見積もられている。北大西洋の海水の一部は、インドネシアの海を経由してインド洋に向かい、それから大西洋の南に移動する。これらの移動時間は、約30-40年間と見なされている。
現在まで、科学は赤道の海流システムにより形成された重要なバリアのおかげで、北太平洋と南太平洋の間で交流はなかったと見なしていた。タスマニア海でのセシウム137(北半球での大気中の核降下)の軌跡の測定では、このバリアは完全には防水になっていず、交流は北-南間、太平洋の西の一部で起こることが可能だったということを示している。
- 生物への放射能汚染の影響
短期的には、福島第一原子力発電所近くの沿岸領域の海洋の栄養の連鎖の環全体は、海水の放射能汚染によって影響を受ける恐れがある。さしあたり、この影響の重要性を数量化するのは難しく、以下のものによってとても変化しやすい可能性がある。
– 発電所からの放射性汚染水の大きさと継続
– 海上への大気降下物
– 汚染土壌を排水する水路測定網による放射性核種の量
– 沿岸での水流の入れ替えなど
原子力発電所近くの沿岸に位置する養殖場(海藻、軟体動物、魚)に特別な注意を向けなければならない。たとえこれらの施設が3月11日の津波によって甚大な害を被ったとしても。
ヨウ素は、日本で重要な産業の対象となっている褐色の海藻類にとって、強い類似性がある。従って、放射性ヨウ素とりわけヨウ素131によるこのタイプの海藻を汚染するリスクが存在する。しかしながら、この放射性物質半減期の短さによって、このリスクは数カ月間しか意味はないだろう。
より長期的には、執拗な放射能汚染により影響を受けるかもしれないのは、汚染された盆地斜面の洗浄による放射性物質の移動によって影響を受ける沿岸部である。汚染された堆積物の現象は、等しく水や生物においていくつかの放射性核種の著しい濃度のレベルを維持することに貢献するかもしれない。
生物体内での蓄積現象は水中で測定された濃度より高い濃度、放射性核種や影響を受けやすい種によって濃度因数は10から数1000になるかもしれない(生物種と海中の単位質量当りの濃度の関係)。堆積物の容量はそれぞれの生物種の代謝に依存する。例として、セシウムでは、濃縮因数は軟体動物や海藻では50、魚では400と様々である。ヨウ素では、魚では15、海藻で10,000となっている。
これらの蓄積現象は、地理学的な地帯での放射線医学的な監視プログラムの実施を正当化しうるものである。その広範さは、直接的にあるいは間接的に人間の食物連鎖に入り込んでいる野菜や動物を含む予測的な性格を持った地図作製法の研究によって明確になるに違いないだろう。
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ピンバック: 「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響」4月4日付IRSNレポート全訳 (via Genpatsu) | ogswr.wordpress.com
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